姫と騎士





「ズルいね、新一は」


船の上。 デッキの手すりに頬杖を付いている快斗の髪が、潮風に揺れる。

「ズルいよ」

 快斗が振り向き、手すりに背を預ける。 そこには、虚しげな苦笑。 切ないんだ、そう言いたげな。

「オレを愛してはくれないんだろう? それならいっその事、突き放してくれればいいのに」

暫くの沈黙。 塩気の多い潮の匂いに、今更気付く。

 ふぅ、快斗が唐突にため息を吐く。 ここは潮の匂いが強いね、と今更のように言う。

「さっきの、半分は嘘」

快斗が手招きをする。 一瞬躊躇ったが、素直にそれに従う。

「新一がオレのこと突き放したら、きっとオレは生きていけないからさ」

親指を立てて人差し指をこめかみに押し付け、オレ、死んじゃうかも、おどけてみせる。 そんなこと、出来るわけ無いのに。 コイツは、生きることを誰よりも楽しんでいるようなヤツだから。 

「でもね」

声が心持低くなった。 そして耳元で、静かに囁かれた。


「半分は本当」

快斗、思わず呟く。 眉をひそめて快斗の目線を捕まえる。 居心地が悪い。 それは誰のせいでもなく、ズルい自分のせい。

快斗はそのまま、くすっと笑った。

「だけど、まぁ」

 快斗が空を仰ぐ。 そのまま右腕を挙げてるかと思えば、白い鳩が一羽そこに止まった。 腕を降ろし、一通り鳩を撫でてやってから、また腕を挙げて鳩を空に放った。

一連の動きを見ていた新一に、快斗の視線がぶつかる。

「新一は、そのままでもいいよ」

そんなの勝手だ、と少しムっとする。 でも考えれば一番勝手なのは自分自身なのだと気付き、声には出さない。 だけど何となく居心地が悪くてムっとしていると、隣に居た快斗が正面で方膝を付いた。

「だけど、オレは愛してるよ」

君がオレを愛していなくても。 君が誰を愛していても。 だから。

 そして新一の右手を取り、静かに唇を押し付ける。

例えるならば、姫に忠誠を誓う騎士。

それならさしずめオレは姫か。 そう考え、ふっと笑う。 ガラじゃないな。

それでも。

「オレが守って差し上げますよ、ワガママなお姫様?」


こいつが騎士なら、それもいいかもしれない。








---***あとがき。

 新蘭前提の快新のイメージ。 超短分(笑)
ふと思いついた情景を、さらさら書いたものですー。 私はコレ、元ネタって呼ぶんですが。
いつもはコレから小説にしていくのですが、構想が出来ずにこのままアップ。
もしかしたらそのうち、こんな感じの情景が入った普通の小説を書くかもしれません。 書かないかもしれません(笑)

 新蘭前提の快新は、新一は快斗に惹かれてはいるけれど、蘭ちゃんが一番大切なのです。
それでも快斗は大切だから、突き放しはしないのです。 快斗の気持ちに気付いてるくせに、見て見ぬふり。
すごいワガママだけれど、快斗はズルいところ全部含めて好き。 否、愛してるんです。
だから、君が誰を一番に思っていても、オレは愛してる。 見守る愛ですヨ!!
そんなのがスキー。 これって快新なのか!?(汗