今日は、休日になるはずだった。

世間一般で言うゴールデンウィーク。 その終盤にあたる今日は、事件も無ければ補習も無く、文字通り「休む日」になるはずだった。

そして、昨日出た新刊を徹夜で読み漁っていた新一は、その「休む日」を有意義に使って、眠りこける予定だった。

そう。

「あのやろ・・、会ったらとりあえずぶっ殺す・・!!」

 

そう、ちょっと頭の構造がおかしい・・、いや、謎に包まれた怪盗から、「名探偵宛」の暗号が届くまでは。

 

ちょっとした暗号

 

 頭が少し痛い。 ああ、眠いのか、と、どこか他人事のように考える。

理由は明確だった。 枕元に置かれる、真新しいハードカバーの厚いミステリー小説。 そう、犯人は彼だ。

いや、それでは名誉毀損になるかもしれない。 真犯人は、それを徹夜で読み上げた新一と言うべきだろう。

 とりあえず、ベッドに座った体制のまま、んーっと伸びをする。 同時に出た欠伸で、少し目に涙が浮かんだ。

そして冷蔵庫から牛乳を取り出し飲めば、少し頭痛が楽になった気がする。

 ふとテーブルに目を移した。 そしてそこに、昨日までは無かった侵入物を見つける。

・・白い紙に書かれた、最後にふざけた絵が描いてある、暗号を。

 

只今の機嫌、最悪。

 

***

 

夜の静寂。 控えめに光る街のネオン。 さっきから軽く吹き付けている風。

そこはどこか、秘密めいていて。 子供が秘密基地を見つけたような、そんな感覚。

そしてその秘密基地には、いつだって先客が居る。 そいつは、この秘密基地を提供した本人だ。

 

「こんばんは、名探偵」

 

 今夜も月が綺麗ですねぇ、黒い空に浮かぶ、大きな満月を見上げるそいつは、悔しいことに、息を呑むほどに月がよく似合う。

それはどこか神秘的で。 またそれは、謎めいていて。 そして何よりも、美しいと思う。

 

「何の用だよ、オレの休日返せ、バ怪盗。」

半眼で睨みつつ、そう言い放つ。 するとキッドは、くすっと紳士的に笑った。

ムッとして何だよ、と言うと、いえ、すみません、と返された。 そして、目を細めて優しく言う。

 

「それでも貴方は、来てくれるでしょう?」

ぐっ・・、と息を呑んだ。 白い紳士が浮かべるのは、今はニヤリという確信犯的な笑みだった。

それはどこか嘲笑しているようで。

――白状してご覧? 君は俺に惹かれているんだろう?

その笑みは、そう言っているかのようで。 悔しい。 ムカツク。

月が似合うこの紳士が。

この舞台を演出する、このネオンが。

そして何より、言い返せない自分自身が。

 

むすっとしていると、怪盗が口を開いた。 その顔に浮かぶのは、もう確信犯的な笑みではなく、いつもの楽しそうな笑み。

「私の暗号、名探偵にはつまらなかったですか?」

訊ねる口調のそれはしかし、訊ねているわけでは無かった。 何故ならこいつは、その先の答えを知っているのだから。

「・・おめぇの暗号にしては、楽しませてもらったぜ?」

半分は嘘。 しかし半分は本当。 この怪盗の暗号で、楽しまなかったことなど、今までに無かった。

怪盗は、またくすっと笑う。無理をして、と。 無理をして。 君は、不可解な謎が好きなはずだろう?

「喜んでいただけて光栄ですよ、名探偵v」

ゆっくり微笑む。 一際強い風が吹いた。 怪盗は、シルクハットのツバをぐいっと押さえてそれをしのぐ。

そしてやがて、強い風はやみ、元通りの緩やかな風が吹きつける。 怪盗は、ぴん、と軽くツバをはじき、そのまま右手首に絡まっている腕時計に、すっと目線を落とす。 そして口元を綻ばせ、軽く目を閉じる。 その仕草はまるで、優雅な黒猫のようだった。

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優雅な黒猫は、突然に何かのカウントを始めた。 分からない、と、眉を分かる程にしかめても、怪盗の視線は腕時計に注がれ続けられ、問いには答えなかった。

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ドキン、不本意にも、胸が高鳴るのを感じた。

この謎の塊は。

何をしようとしているのだろうか。

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ポム!!

 

いつの間にか目の前に、真っ赤な赤いバラの花束。

そして何より、自分の唇に伝わる、柔らかな温もり。

薄目を開けた、白い黒猫。 しっかり固定された、自分の後頭部。

 状況を把握しようと、目は目の前の光景を脳に伝えている。 だが肝心の脳は、その光景を上手く繋いではくれなかった。 そして数十秒後、きっちり怪盗が口付けを堪能した時、やっと今の状況を把握した。

「て・・んめっ」

何しやがる!と蹴りを入れて怒鳴ろうとしたが、その口はまた塞がれた。

 しかしそれは、先程のものとは違い、ごく短いもの。 それはまるで、しゃべっちゃだめ、とでも言うような。

そして直後、怪盗は真っ直ぐに新一を見つめた。 そして、紳士的に、というよりは太陽のように。 快斗の、ように。 微笑んだ。

 

「ハッピーバースデー、新一」

 

 

 そして不可解でムカつく謎の塊のようなヤツの、とてもあつかましく、その上嬉しくも無い祝福を受け取らされた新一は、それでも右足で怪盗を蹴り倒すことで、とりあえずはそれを許した。

「今度やったら、宝石、水槽に入れるからな」

去り際にそう言った新一の眼力は相当の物で、怪盗はただ、はい・・!と上ずった声で答えることしか出来なかった。



 そして怪盗は、一人になった秘密基地で、ふぅ、とため息をつきながら肩を小さくすくめ、シルクハットのツバをぐい、と深くかぶり直した。

「まったく・・、可愛いね、名探偵も」

口元に手を持っていって、くすり、と笑った。

 

HappyBirthDay!! My FavoriteDetective..ShiniciKudo




あとがき。

ハッピーバースデー新一! 大遅刻でゴメンね><
この小説は、快斗バースデーじゃなくて、新一バースデー小説ですヨ!!(笑)
快斗ばっかり良い思いしてますがね(笑)

この小説のタイトル(「ちょっとした暗号」)は、お友達であり、尊敬快新作家さんである、茉莉花ちゃんに頂きましたーv(わーい)
そんな茉莉花ちゃんの素敵サイトは、この表の世界のリンクから行けますよ!!(「空の上には」様)





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